MRIの原理の理解(撮像パラメータの正しい選択)や、医用画像の細かいパターンが続く部分とその濃度変化の関係を定量的に評価するための周波数伝達関数(MTF:modulation transfer function)を求めること(細かく淡い濃度を持つ病巣の検出レベルの限界を知る)など、さまざまな応用が可能です。
学生の頃の物理実験に使ったオシロスコープなどは、時間(横軸)と信号強度(縦軸)の関係を表示する装置であり、その信号波形は複数の波の合成とみなすことができました。
その1つ1つの波の時間に対する周波数(1秒あたりの波の数)を横軸にして、どのような周期の波(短い時間周期の信号が多いのか、少ないのか?など)が分布しているのかを調べる装置がスペクトルアナライザでした。
ここで、スペクトルと聞けば、光の世界を連想する人も少なくないと思いますが、これもプリズムによって太陽光が虹の7色に分解され、色によって波長が異なるために、スクリーンには連続的な色の変化(連続スペクトルという)が現れます。
紫色は波長が短く周波数が高いため、物質中を進みにくく、屈折率が高くなります。これによってプリズムを通過した後は、色(周波数)ごとにスクリーンに並びます。上記のように、スペクトルの解析は、複雑な合成された信号の成分を分析するのに有効です。
これは、画像として表される病気によって引き起こされる何らかの複雑な信号を分析するときも同じです。
後者の場合は、プリズムという物質で分光しましたが、前者の場合は、時間領域(オシロスコープ)と周波数領域(スペクトルアナライザ)の変換を数学的な変換手法によって行っています。
この変換手法の1つがフーリエ変換です。
大学教育において不幸なことにフーリエ変換の式を、いきなり制御工学などで説明されることもありますが、その数式に囚われて、フーリエ変換の臨床での重要さを見失ってしまうことが多いのかもしれません。
画像における周波数の世界も、上記のようなスペクトルアナライザの理解と全く同じであり、本来はいたって理解しやすいもののはずです。
さて、本題である画像における周波数の表現方法ですが、画像はその位置と濃度の関係が、前述のオシロスコープの時間と信号強度の関係に対応します。
この位置的(空間的)に変化する信号の周波数の事を空間周波数といいます。
単位長さ(例として、1画素の1辺の長さ)に対する画素値の周期の逆数で定義されます。
実際に、ImageJを用いて空間周波数の世界を表現してみましょう。
次の図は、テストパターン上の水平直線上(スキャンライン)の画素値を表しており、この位置-画素値のグラフをプロファイルといいます。
ImageJを起動した後、まず、テストパターンなどの対象物を表示、次にメニュー下のライン選択ツールを用いて、画像上にスキャンラインをおきます。次に、メニューからAnalyze>PlotProfileを選択すれば、プロットプロファイルが表示される。
このプロファイルから画像が周期性の波形で表現でき、よく耳にする空間周波数(単位長さあたりの波の数)という表現も実感できるのではないでしょうか。
画像のA/D変換(analog to digital convert)は、連続的な位置座標(x,y)を離散的な整数値データに変換する画像の「標本化」(サンプリング:sampling)と、連続的な濃淡fを、同様に離散的な整数値データに変換する「量子化」(クオンティゼ―ション:quantization)によって説明されます。
ここで、もちろん、標本化の格子の間隔(標本間隔)が小さいほど画像の解像度が高くなり、細かなパターンを読み取ることができることは理解しやすいことです。しかしながら、ある目的とする対象物の大きさが決まっている場合、どこまで細かく標本化したら、その対象物が再現できるかという疑問が生じます。
粗く標本化すればモザイクのような画像になり、細かすぎる場合は、画像容量の増大やピクセル1つに入る情報量の減少のために全体としては画像ノイズが目立ってしまいます。
このような場合に、最適な標本化を説明する定理を「標本化定理」といいます。ここで、前述の画像の周波数表現が大変重要な意味をもってきます。例えば、正弦波状に濃淡値が変化する縞の画像が存在した場合、この縞を、縞の周期(白色から黒色に移行して、また白色に戻る距離)の1/2よりも小さな間隔で標本化すれば、もとの縞を再現できるというもので、シャノン(Shannon)の標本化定理(sampling theorem)といいます。
ちなみに、この1/2で標本化した際のその縞の周期の逆数を標本化周波数、もしくはサンプリング周波数といい、さらに、サンプリング周波数の1/2をナイキスト周波数(nyquist frequency)といいます。
ナイキスト周波数の縞の周期は、原画像のピクセル2つ分に相当し、この間隔(ナイキスト間隔)以下の周期は、標本化しても再現されないことを意味するので、遮断周波数(cutoff frequency)ともいわれています。
この原画像に含まれる濃淡パターンの周期の1/2より標本間隔が広くなると、原画像にもともと存在していなかった周期の濃淡パターンが標本化された画像に含まれるようになり。もともと存在しなかった疑信号「エイリアス(alias)」が生じます。この現象をエリアシング(aliasing)といいます。MRIのエリアシングアーチファクトと原理が似ていますね。エリアシングアーチファクトでは、撮像範囲外の信号がノイズとして入ってますから。
話を戻して、このエリアシングを防止するためには、標本化する対象画像を平滑化(縞の周期を長く伸ばしてボケさせる)することによって、解決できますが、画像の鮮鋭度(画像のシャープさ)が低下します。
このエリアシングを理解するために、円形ゾーンプレートというパターンがしばしば用いられるそうで、このことについてもっと詳しく知りたい方は、参考記事を読んでみてください。プログラムした画像をImageJで表示した例が示されています。
ここで学習すべきことは、病気を検出するに当たり、医用画像においても、画像を表示するときに、画像の分解能とモニタとの相性などを考慮して、必要以上のサンプリングやエリアシングによるノイズを生じさせないように気をつけなければならないという事でしょう。
空間周波数について理解できれば、臨床においてその理解を深められるモダリティはまずはMRIです。
MR信号は、スペクトルです。
周波数エンコーディング-位相エンコーディング行列がk-空間であり、撮像時間に影響する位相エンコーディングの方向に順次MR信号が埋められていきます(古典的なシーケンスでは、時間TRごとにMR信号が1行ずつ埋められる)。
よって、このk-空間はスペクトルで埋められるがゆえに、「空間周波数領域」のデータであるので、周波数-空間変換処理によって、MRIの画像が作成されるという仕組みとなっています。
この図は、MRIの画像をフーリエ変換(Process>FFTを選択)したものです。ここで大切なのは、k-空間そのものの原理より、解剖や生理学的な知識をもとに、周波数エンコードと位相エンコードの方向を変えるような撮像技術でしょう。動きのあるアーチファクトや撮像部位の縦横比などでMRI画像のエリアシングアーチファクトなどを避けるために、位相エンコード方向やFOVを巧みに変えながら高画質の臨床データを提供することが大切です。
次回も引き続き画像の周波数表現について学びます!
Reference
画像における周波数の世界
学生の頃の物理実験に使ったオシロスコープなどは、時間(横軸)と信号強度(縦軸)の関係を表示する装置であり、その信号波形は複数の波の合成とみなすことができました。
その1つ1つの波の時間に対する周波数(1秒あたりの波の数)を横軸にして、どのような周期の波(短い時間周期の信号が多いのか、少ないのか?など)が分布しているのかを調べる装置がスペクトルアナライザでした。
ここで、スペクトルと聞けば、光の世界を連想する人も少なくないと思いますが、これもプリズムによって太陽光が虹の7色に分解され、色によって波長が異なるために、スクリーンには連続的な色の変化(連続スペクトルという)が現れます。
紫色は波長が短く周波数が高いため、物質中を進みにくく、屈折率が高くなります。これによってプリズムを通過した後は、色(周波数)ごとにスクリーンに並びます。上記のように、スペクトルの解析は、複雑な合成された信号の成分を分析するのに有効です。
これは、画像として表される病気によって引き起こされる何らかの複雑な信号を分析するときも同じです。
後者の場合は、プリズムという物質で分光しましたが、前者の場合は、時間領域(オシロスコープ)と周波数領域(スペクトルアナライザ)の変換を数学的な変換手法によって行っています。
この変換手法の1つがフーリエ変換です。
大学教育において不幸なことにフーリエ変換の式を、いきなり制御工学などで説明されることもありますが、その数式に囚われて、フーリエ変換の臨床での重要さを見失ってしまうことが多いのかもしれません。
画像における周波数の世界も、上記のようなスペクトルアナライザの理解と全く同じであり、本来はいたって理解しやすいもののはずです。
さて、本題である画像における周波数の表現方法ですが、画像はその位置と濃度の関係が、前述のオシロスコープの時間と信号強度の関係に対応します。
この位置的(空間的)に変化する信号の周波数の事を空間周波数といいます。
単位長さ(例として、1画素の1辺の長さ)に対する画素値の周期の逆数で定義されます。
ImageJで画像の周期性を理解する
次の図は、テストパターン上の水平直線上(スキャンライン)の画素値を表しており、この位置-画素値のグラフをプロファイルといいます。
テストパターン
プロットプロファイル
このプロファイルから画像が周期性の波形で表現でき、よく耳にする空間周波数(単位長さあたりの波の数)という表現も実感できるのではないでしょうか。
画像を周波数表現することの意義(デジタル画像の基本)
画像のA/D変換(analog to digital convert)は、連続的な位置座標(x,y)を離散的な整数値データに変換する画像の「標本化」(サンプリング:sampling)と、連続的な濃淡fを、同様に離散的な整数値データに変換する「量子化」(クオンティゼ―ション:quantization)によって説明されます。
ここで、もちろん、標本化の格子の間隔(標本間隔)が小さいほど画像の解像度が高くなり、細かなパターンを読み取ることができることは理解しやすいことです。しかしながら、ある目的とする対象物の大きさが決まっている場合、どこまで細かく標本化したら、その対象物が再現できるかという疑問が生じます。
粗く標本化すればモザイクのような画像になり、細かすぎる場合は、画像容量の増大やピクセル1つに入る情報量の減少のために全体としては画像ノイズが目立ってしまいます。
このような場合に、最適な標本化を説明する定理を「標本化定理」といいます。ここで、前述の画像の周波数表現が大変重要な意味をもってきます。例えば、正弦波状に濃淡値が変化する縞の画像が存在した場合、この縞を、縞の周期(白色から黒色に移行して、また白色に戻る距離)の1/2よりも小さな間隔で標本化すれば、もとの縞を再現できるというもので、シャノン(Shannon)の標本化定理(sampling theorem)といいます。
ちなみに、この1/2で標本化した際のその縞の周期の逆数を標本化周波数、もしくはサンプリング周波数といい、さらに、サンプリング周波数の1/2をナイキスト周波数(nyquist frequency)といいます。
ナイキスト周波数の縞の周期は、原画像のピクセル2つ分に相当し、この間隔(ナイキスト間隔)以下の周期は、標本化しても再現されないことを意味するので、遮断周波数(cutoff frequency)ともいわれています。
この原画像に含まれる濃淡パターンの周期の1/2より標本間隔が広くなると、原画像にもともと存在していなかった周期の濃淡パターンが標本化された画像に含まれるようになり。もともと存在しなかった疑信号「エイリアス(alias)」が生じます。この現象をエリアシング(aliasing)といいます。MRIのエリアシングアーチファクトと原理が似ていますね。エリアシングアーチファクトでは、撮像範囲外の信号がノイズとして入ってますから。
話を戻して、このエリアシングを防止するためには、標本化する対象画像を平滑化(縞の周期を長く伸ばしてボケさせる)することによって、解決できますが、画像の鮮鋭度(画像のシャープさ)が低下します。
このエリアシングを理解するために、円形ゾーンプレートというパターンがしばしば用いられるそうで、このことについてもっと詳しく知りたい方は、参考記事を読んでみてください。プログラムした画像をImageJで表示した例が示されています。
ここで学習すべきことは、病気を検出するに当たり、医用画像においても、画像を表示するときに、画像の分解能とモニタとの相性などを考慮して、必要以上のサンプリングやエリアシングによるノイズを生じさせないように気をつけなければならないという事でしょう。
臨床における空間周波数処理例(MRIのk-空間とは?)
MR信号は、スペクトルです。
周波数エンコーディング-位相エンコーディング行列がk-空間であり、撮像時間に影響する位相エンコーディングの方向に順次MR信号が埋められていきます(古典的なシーケンスでは、時間TRごとにMR信号が1行ずつ埋められる)。
よって、このk-空間はスペクトルで埋められるがゆえに、「空間周波数領域」のデータであるので、周波数-空間変換処理によって、MRIの画像が作成されるという仕組みとなっています。
この図は、MRIの画像をフーリエ変換(Process>FFTを選択)したものです。ここで大切なのは、k-空間そのものの原理より、解剖や生理学的な知識をもとに、周波数エンコードと位相エンコードの方向を変えるような撮像技術でしょう。動きのあるアーチファクトや撮像部位の縦横比などでMRI画像のエリアシングアーチファクトなどを避けるために、位相エンコード方向やFOVを巧みに変えながら高画質の臨床データを提供することが大切です。
次回も引き続き画像の周波数表現について学びます!
Reference
- 「山本修司:ImageJで学ぶ実践医用・バイオ画像処理.INNERVISION(20・6) 2005, p114-116」
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