画像情報から何らかの統計値を計算し、その統計値そのものを画像化する手法はよく使用されます。
特に臨床においては、functional MRI(fMRI)や核医学イメージングなどの機能画像処理で利用されることが多く、lmageJでも関連するプラグインがいくつか紹介されています。
fMRIは、MRIの撮像法の分類の中の1つとして定義される場合や、画像解析法として定義される場合など、さまざまな解釈があり、本稿では、特に厳密なfMRIの解説は避けて、lmageJを用いた統計画像処理の1例としてMR画像を用いた応用例を紹介します。
fMRIの概要
fMRIは、主に脳の活動レベルを計測するためのイメージング法であり、ヘモグロビン内の酸素レベルを利用する磁気イメージングの特別な方法です。
fMRIの原理で最もよく説明されるのが、BOLD(blood oxygen level dependent)効果です。
血中に含まれるヘモグロビンは、酸素との結合状態によって磁性が変化します。酸素結合型のヘモグロビン(Oxy-Hb)は反磁性体であり、酸素が離れたヘモグロビン(Deoxy-Hb)は磁化率が大きい常磁性体です。
脳活動による神経細胞の活動増加はまず酸素消費の増加をもたらし、その結果、Deoxy-Hb濃度が少しだけ上昇します。その数秒遅れで始まる脳血流量の急激な増加は、消費を大きく上回る酸素量を供給するため、Oxy-Hb濃度を急激に増大させ、MRI信号の増強とその緩和時間を長くします。
脳賦活時には、安静時に比べて賦活領域の局所脳血流が30~50%も大きく増加するのに対し、酸素消費量の増加は5パーセント程度という報告もあり、このため、脳が刺激を受けた場合、賦活領域での血流は増加し、常磁性体であるDeoxy-Hbの濃度低下とともに磁化率も減少し、T2*が延長すると考えられます。これは、T2強調画像において賦活部位で増加するMRI信号として検出されます。
fMRIには、活動部位に多量の血液が流入し,酸素化ヘモグロビンの量が増加し,それに伴って信号が増加するBOLD効果を利用する方法が主に利用されています。この他、パルスを加え、血液の磁化を反転させる方法によって、任意領域の血液のプロトンに異なる信号を持たせ、これを高速撮像で可視化することで、脳組織内での血液の灌流 (パーフュージョン)を観察する方法(ASL:Arterial spin labeling)や造影剤を使う撮像法(ダイナミック造影)などがあります。
MRI Analysis Calculator
MRI Analysis Calculatorは、University of Massachusetts Medical SchoolのKarl Schmids氏によって提供されているMRIおよびfMRIデータ解析のためのImageJプラグインです。
このパッケージは、University of Massachusetts Medical SchoolのCenter for Comparative Neuroimaging(CCNI)とHarvard Medical School/Brigham&Women’s Hospitalの小動物対象のfMRI研究施設で開発・管理されているImageJのプラグインコード集です。
このプラグインの最も単純な機能は、MR画像からT1、T2、パーフュージョンおよびディフュージョン計算を行うものです。
以下に、具体的な使用方法を説明します。
ImageJを起動して、異なるTRやTEのSE法にて撮像したMR画像をPCに取り込み、ImageJのプラグインである MRI Analysis Calculator (http://rsb.info.nih.gov/ij/plugins/mri-analysis.htmlからダウンロード)を起動します。
プラグインにはサンプル画像が含まれています。
T1/T2スタック画像は、Import>Rawデータから、以下の設定で読み込みます。
ちゃんと開けると、T1wなら6画像のスタック、T2wなら、16画像のスタックが開けます。
T1強調画像スタックのT1マップを作成する場合は、MRI Analysis Calculatorダイアログのポップアップメニューから〈T1Calculation>を選択すると、T1 Calculation Parameterセットアップメニューが開きます。
ここで、スタック画像を構成する個々の画像のTR値(100msは0.1s)をスペース区切りで入力します。次に、T1値をゼロにするR(2)乗(以下、R2)の閾値を入力します。
ここでR2は、得られた関数と測定値の一致度合いを示す相関係数を意味しています。 この相関係数画像も欲しい場合は、ウィンドウ下のチェックをつけておきます。
最後に、ClipT1 values exceedingにT1値の上限を設定し、OKを押すと、T1マップ画像が生成されます(図左上)。
T2マップも、T1マップ画像の処理手順とまったく同様に設定を進めていくと、図(右上)のようなT2マップ画像が生成されます。
より詳しい情報は、プラグインに含まれているドキュメントを参照してください。
ImageJによるMR画像を用いたパーフュージョン計算例
MRI Analysis Calculatorでは、arterial spin labeling(ASL)画像とT1強調像のスタックを用いてパーフュージョンの計算が可能です。
同プラグインのサンプル画像を用いて、次の各ステップを経てパーフュージョン画像を作成できます。
ASLは、MRの領域選択的RFを用い組織に流入する血液のスピンを反転させることで、血管内血液の磁化の状態をある種のトレーサーとして血液の分布を画像化するものです。
以下、このASLとT1を用いたImageJによる処理方法を解説します。
- ASL画像のスタックとT1強調像のスタックを読み込む。
- MRI Analysis Calculatorを起動し, ポップアップメニューから〈Perfusion Calculation>を選択する。
- Perfusion Calculationのパラメータを設定する。
(パーフュージョン機能選択)
(計算設定)
(パーフュージョン結果)
R^2マップ(T1 fit quality)
ここでは、ダイアログの中にASL画像とT1強調像の計算内容が示されています。ASLスタックからは、ASLコントラスト画像(ASLW)を生成し、T1マップは、指数関数によってそれぞれのスライスからの値をフィッティングさせる単純なアルゴリズムが用いられています。
最終的に、ASLWとT1マップは、パーフュージョンを求める次式に利用されます。
Perfusion = (ASLW * 6000 * 0.9) / (1.6 * T1)
その次元はmL/100 mL/minで計算されています。
MRI Analysis Pakについて
MRI Analysis Pakは、MRI Analysis Calculatorよりも多くのfMRI用の機能がパッケージ化されているクラスライブラリです。概要は以下のとおりです。
特記すべき解析機能は以下のようなものです。
- continuous ASL (CASL) perfusion :MRIのデータを、BOLDとcerebral blood flow(CBF)シリーズに分離する。
- キャリブレーションとスティミュレーションから、酸素消費率(CMRO2)マップを計算する。
- 時系列のgeneralized linear model (GLM)解析を行う。
- 画像同士のカラーオーバーレイおよび位置合わせ処理を行う。
特殊な画像フォーマットを取り扱う必要がありますが、これらは、豊富な医用画像の統計的処理手法を提供してくれています。
また、これらの画像処理以前に、fMRIでは、例えば、脳の賦活を観察する場合には、画像信号になるまでの信号の発生源からその信号をキャッチするまでのメカニズムを理解する必要があります。
fMRIは、仮説を立てて検証的な解析を試み、そのためのシーケンスを考え、MR撮像後はさらに、統計画像処理によって定量かつ視覚化できます。
前回は、画像の統計処理として主成分分析や判別分析について述べましたが、その臨床応用としてfMRIへの適用も盛んに行われています。
独立成分分析(independent component analysis:ICA)は、未知の線形作用によって混合された複数の独立な信号を、その統計的な性質に注目してもとの独立な信号に復元する手法です。
fMRI計測時には脳内の多数の部位が同時に活動するため、出力信号は複数の独立な成分が混ざり合ったものです。局所的な活動間に、ある種の独立性が成り立つのであれば、ICAによって観測信号の分解を行うことができますね。
今回はImageJによるfMRI統計画像処理の概要を紹介しました!
Reference
- 「ImageJで学ぶ実践医用・バイオ画像処理.INNERVISION(23・6) 2008, p77-79」
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