DICOM(ダイコム)というのは、医用画像を電子的に取り扱うための包括的な規格で、データの定義や通信の方法などを規定しています。医用画像はこのDICOMに則って、インターネットや専用のLANを通してパソコン端末や画像保管サーバに転送、保存できるようになっています。
はじめに
ImageJは画像解析ソフトウェアなので、そのままDICOMファイルを開いて、処理してというのはできるのですが、実際の臨床の場では、より画像参照を効率的に行うためのDICOMビューワというものが利用されています。
ImageJとDICOMビューワとの大きな違いは、臨床現場で効率的に使うように設計されているかどうかです。ImageJを起動して、まずは数百枚ある画像をスタックにしてから〜という煩雑な操作は時間の限られた環境ではできません。このようなワークフローを事前に研究して、自動化し、DICOM画像を効率的に参照できるようにしたものがDICOMビューワです。
このようなDICOMビューワには、ImageJを元に作成されたものがあり、今回は、このようなビューワとImageJとを同時に使う(DICOMビューワで表示した画像をImageJで表示してみたり)方法についてご紹介いたします。
まず初めに、画像の入力方法から考えていきたいのですが、医用画像をImageJに入力する方法は、一般的にみて、大きく二つあります。
1つは、DICOM通信機能を使って、インターネットやLANを通して電子データを通信させる方法です。この通信では、ImageJが画像データを受けとるだけでなく、ImageJから特定の相手(DICOMクライアント)に送信することもできます。
もう1つは、トラディショナルな手法で、CDやDVDなどの外部メディアを用いて、医用画像(DICOM画像)を読み込む方法が挙げられます。
このような挙動を実現する例として、本ブログの第29回(こちら)で紹介した"Tudor DICOM Tools"というImageJのプラグインが有名です。(通信設定方法は、第29回 連続画像処理 ImageJオープンソースネットワーク環境を用いた複数画像処理で学ぶ!をご参照ください。)
実は、このプラグインの機能を盛り込んだDICOMビューワも同サイトから公開されています。それが、DICOM_Viewerです。今回は、このビューワをTudor DICOM Viewerと表記します。
Tudor DICOM Viewerによる医用画像表示と画像の確認
まずは、Tudor DICOMビューワをインストールします。
内容はこのようになっています。
(Tudor DICOM Viewerの内容)
※DICOMSTOREは通信設定時に作成されます。
※Run-Dicom_Viewer.appは、筆者が作り直した起動ファイルです。
早速、このビューワを使って画像を表示してみましょう。
まずは、トラディショナルな方法からいきます。特定のフォルダに保存されたDICOM画像を表示します。まず、起動してみます。お使いのOSに合わせて起動ファイルをダブルクリックします。
(Macの場合、10.6以降のMacOS搭載PCでは、Tudor DICOM Viewer実行ファイルがPowerPCバージョンになっているため、そのままでは.appをダブルクリックして起動できません。.shファイルに書かれているスクリプトを使って、ターミナルから起動してください。面倒な方は、Automaterで.appファイルを作るといいかもしれません。)
筆者作のAppファイルはこちらから(クリック)どうぞ。
このAppファイルは、上記の内容にしめすように、Tudor DICOMビューワフォルダに入れてから、ダブルクリックでビューワが起動するようになっています。(スクリプト内容が心配な方は、一度Automatorで開いて内容を確認してください。)
(起動画面)
起動画面の左上のファイルマークボタンから、DICOMファイル選択ダイアログを表示して、表示したいDICOMファイルが保存されているフォルダあるいは、DICOMデータそのものを選択します。
(DICOMファイル選択ダイアログ)
(画像を表示:DICOM-CDから開く場合も同様の操作方法で画像を表示)
画像を参照するもう一つの方法は、「別のDICOMサーバに保存されている」あるいは、「別のビューワやワークステーションに保存されている」画像を、一旦このビューワにロードしてから、表示する方法です。
こちらの方法は、一見簡単に見えますが、意外に高度なテクニックです。いろいろな方法がありますが、今回は、DICOMサーバとの連携例を示します。
まず、DICOMサーバを別に用意しておきます。
このDICOMサーバには、Tudor DICOMビューワのAEを事前に設定しておきます。
この操作は、第29回を参照してください。
ここまで出来たら、次はビューワ側の設定確認を行います。
ビューワ起動画面の右上にレンチのマークがありますが、これが通信設定ダイアログを起動するボタンです。早速起動してみます。
すると、DICOMPACS設定パネルに切り替えることができるので、切り替えてみます。
(DICOM/PACS設定画面)
この画面から、DICOMサーバを設定できます。
(筆者はこの画面のように、DCM4CHEEというDICOMサーバに接続してみました。)
この設定までうまくできれば、次は通信です。
DICOMファイル選択ダイアログを再度表示して、虫眼鏡マークのPACSクエリパネルを表示します。
(虫眼鏡マークのPACSクエリパネル)
筆者のDICOMサーバには数例しかサンプルが格納されていないので、全症例分のデータを、このダイアログの右上検索ボタンからリストしてみます。
もし、事前に患者名などがわかっている場合には、ドロップダウンから検索情報を指定して検索することもできます。
(DICOMサーバ内のデータをリスト)
このリストから、任意のデータを選択して、"Retrieve to Local"で、Tudor DICOMビューワ内のDICOMSTOREフォルダに画像がコピーされます。
コピーされたら、Tudor DICOMビューワのデータリストを更新して、ビューワに表示してみましょう。データリストを更新するには、DICOMファイル選択ダイアログの右下矢印マークのDICOMSTOREパネルを表示して、更新ボタンを押します。
(更新前)
(更新後:GAIAというデータが増えた)
あとは、このリストからデータを選択して、シリーズ単位で一気に表示したい場合はOpen Series、一枚だけを表示したい場合はOpen Imageを使って、ビューワに画像を表示します。
(任意のデータを選択してopen imageした結果)
この例では、Tudor DICOMビューワ(DICOM STORE)にDICOMサーバから画像をクエリ&リトリーブする例を示しましたが、逆に、ビューワからサーバに画像を送る(send to PACS)することもできます。
このように、データがサーバに整理されていると、データの選択も迅速に行えて、さらに、ビューワの機能を使って画像を参照することができます。
その他の機能
また、もう1つ重要なポイントとして、このツールには患者や被験者の個人情報を匿名化する機能があります。
医学研究に患者さんの同意を得て画像を利用する以上は、患者さんの個人を特定しうる情報をまったく関係ない文字列や記号に置き換えたり、なんらかの暗号化を行うことで、匿名化をします。たとえば、氏名や患者ID、施設名などです。
このような機能もしっかりこのツールには備わっています。
(匿名化ツール)
ImageJでこのような匿名化の確認を行う際は、DICOM画像を表示してから、メニューのImage>Show Info...でDICOMヘッダー情報というメタデータを確認することができます。
この操作では、この画像に関する背景情報が豊富に記録されているので、用途に応じて確認してみてください。
メタデータを確認するもうひとつの方法は、Tudor DICOMビューワのCompare DICOM header(またはimages)を起動して、元になるDICOMヘッダーと比較対象のDICOMヘッダーを比較して、その差異を強調表示して確認することも可能です。
(Compare DICOM images)
※画像の差分表示:中央とheaderデータの差異を強調表示
もう一つ、粋な機能として、このビューワは、起動ウィンドウ左下のImageJアイコンを押すと、Tudor DICOM Viewerに内蔵されているImageJが起動でき、このImageJにビューワ側でアクティブになっている画像をアウトプットできます。
(ビューワ内蔵ImageJを起動)
また、実行ファイルと共にセットになっているフォルダにpluginsフォルダがあり、ここにImageJプラグインを追加していくことができます。
最後に、、
操作してみて思ったのですが、途中でフリーズすることもあるので、強制終了なども必要なことがあります。このような制限があることをあらかじめご承知おきくださいね。
また、お気づきになった方もいらっしゃるとは思いますが、実は、Tudor DICOMビューアはWebビューワとしても使えるので、このあたりはまた追い追いご紹介いたします。
以上、今回はImageJをDICOMビューワとして使う方法を紹介しました。 次回も医用画像処理について解説を行います!
参考記事:「山本修司:ImageJで学ぶ実践医用・バイオ画像処理.INNERVISION(26・4) 2011, p82-83」
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